読書亡羊

気ままに読書、気ままな読書日記

カフカ短編小説 その2

『皇帝の使者』

 死の床にある皇帝が、一介の市民に過ぎないあなた(Du)に宛てて伝言を送る。だが、その伝言を預かった使者は、懸命に駆け続けているにもかかわらず、決してあなたにたどり着くことはない。何千年もの間。。。
 それでもあなたは、皇帝の伝言(Botschaft)を待ち続けている。

 例によって、伝言の内容は最後まで分からない。しかし、「あなた」が期待して待ち続けていることは確かなようだ。悪い知らせではないのだろう。

 しかし。。。この何千年と待ち続けている「あなた」の姿は、滑稽であり、間抜けであり、悲惨である。そして、その哀れな自分自身の姿に気づいていない。。。

『巣穴』

 いかにも「カフカ」といった感じの作品。
 巣穴に住んでいるものが何者なのかは、分からない。モグラみたいな小動物のようだが、カフカの小説のことだから、人間であっても不思議ではない。
 ノネズミから巣穴を乗っ取ったその住人は、その巣穴を自分の理想の形に作り変える。
 巣穴の中の静けさに、深い満足を覚えているころ、ふと巣穴の奥から聞こえてくる小さな物音に気が付く。そして、その時から巣穴の住人は、この物音の正体を突き止めることに多くの労力と意識を割いていくことになる。
 この物音は未知の獣の足音だ。しかし、その獣の姿は見たことがない。どれほど探しても出てこない。結局、その正体は、分からない。本当にいたのかどうかさえも。。。

 どれだけ自分の不安を取り除き、安住の地を築いても、正体の不確かな不安に常に脅かされ続けている。不安は、実は不安を取り除こうとするその精神態度そのものから生まれてくるのかもしれない。だから、こうした人間は永遠に不安からは、逃れられない。。。

『断食芸人』

 カフカの実生活での苦悩を色濃く反映させた作品。抽象的で漠然とした不安や孤独を描いてきたカフカにとっては、ある意味珍しい作品。
 当時のヨーロッパでは、サーカスの興行のひとつとして、断食芸というのは本当にあったらしい。なので荒唐無稽な題材というわけではない。

 カフカは35才の時、持病の肺結核が進行したため、勤め先の労働者災害保険局を辞めて、療養生活に入る。『断食芸人』が書かれた頃は、咽頭結核のためほとんど食事がとれない状態だった。晩年には声も出なくなっている。
 やせ細っていく自分自身の姿を断食芸人に重ね合わせたのだろう。カフカはこの作品を描いたわずか2年後に亡くなっている。カフカにとって病状ゆえの絶食という状態は、死を意識させるものだったに違いない。

 しかし、この物語の中の断食芸人には全く悲壮感はない。断食は、芸として行っているのだから、まぁ当然だ。むしろ誇りを持って行っている。しかし、世間の人気など儚いもの。今では、断食芸など、だれも見向きもしなくなった。サーカス一座の中でも邪険に扱われている。
 最後にこの断食芸人が気にかけたものは、自尊心だ。死の間際に彼は言う。称賛を望んできたが、称賛されなくてもよいという。自分は、そうせざるを得ないからから、そうしてきたまでだと。
 そうして、断食を貫いて彼は亡くなった。

 カフカは、小説家として生きようとして、小説を執筆することに人生の大半を注いできた。彼は、生前、自分が思うほどの評価は得られなかった。しかし、カフカにとって小説を書くことは、そうせざるを得なかったからそうしてきたものなのだろう。
 評価されることを強く望みながらも、評価されることだけで作品の価値を決めてもらいたくないという自負も垣間見える。

 死を意識しつつ描いた『断食芸人』には、カフカ個人の内面が吐露されているように思えてならない。最晩年のこの作品に、カフカの内面を見たような気がした。

カフカ寓話集 (岩波文庫)

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The Complete Stories (The Schocken Kafka Library) (English Edition)

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