読書亡羊

気ままに読書、気ままな読書日記

井伏鱒二『遙拝隊長』(1950)

広告 // 「ばか野郎。敵前だぞォ、伏せえ」 元陸軍中尉の岡崎悠一は、通りすがりの人々に誰彼と見境なく、突然、怒鳴りつけ、戦時中さながらの号令を発している。彼は、戦争がいまだに続いていると錯覚している。。。 この作品は、昭和25年(1950)、戦争の…

井伏鱒二初期短編

飄々として、軽妙な人物像。淡々として、起伏のない情景描写。 何が面白いのか、と言われれば、説明に困るような作品。。。それが井伏鱒二の短編に感じることだ。 しかし、文章は平易かつ的確で、目の前にありありと情景が浮かんでくる。この描写の巧みさが…

井伏鱒二『山椒魚』(1929)

*度重なる改稿 初出は『幽閉』という題で、1923年(大正12年)に早稲田の同人誌に発表されたもの。その後、大幅に改稿されて、1929年(昭和4年)、『山椒魚』という題で再発表された。 現在、一般的に読まれているものは、この昭和4年発表時のもののようだ…

Benedictus De Spinoza『神学・政治論』(1670)

*思想・表現の自由を保障するための条件 スピノザといえば。。。 人格神を認めない理神論・汎神論と自由意思を否定した徹底した決定論——— という印象が強いが、実際、スピノザの著作に触れてみると、どうもそんなに単純ではないようだ。 こうした教科書的理…

Franz Kafka『アメリカ』(1927)

*『アメリカ』という題名 この作品は、カフカの親友マックス・ブロートによってカフカの遺稿が編纂され、1927年に『アメリカ』という題で出版された。 現在では、『失踪者』という題で出版されているが、どうも自分には、この『アメリカ』という当初の題に…

Franz Kafka『審判』(1925)

*「日常」という目に見えない負担 Kにとって訴訟とは何だったのか。 この訴訟には、終わりも見えなければ、進展も見えない。それでいて、生きている以上、ずっとつきまとって離れないものだ。ただ重い負担となって、ずっとKにのしかかっている。 Kの生活は…

カフカ短編小説 その2

広告 // 『皇帝の使者』 死の床にある皇帝が、一介の市民に過ぎないあなた(Du)に宛てて伝言を送る。だが、その伝言を預かった使者は、懸命に駆け続けているにもかかわらず、決してあなたにたどり着くことはない。何千年もの間。。。 それでもあなたは、皇…

カフカ短編小説

カフカは、未発表や未完成作品を含めて、数多くの短編を残した。カフカの短編小説の多くは、寓話(parable)と呼ぶべきものであって、話の筋や流れ自体にほとんど意味がない。そのため、その話が何を物語っているのか、いろいろと解釈する必要がある。 実存…

仏教の理論

J・ゴンダ『インド思想史』のまとめ続き。今回は仏教について。 *ブッダの不可知論 ブッダは悟りを開いた当初、自らが達した解脱智を人々に説くことを躊躇していた。しかし、世俗化する祭式主義と出家などの苦行主義とに両極化する中で、人々が苦しみの中に…

Jan Gonda『インド思想史』(1948)

インド北西のインダス川流域では、紀元前2600年頃からインダス文明が発展した。この文明は紀元前1800年頃には衰退し、それと入れ替わるような形で、紀元前1900年から1700年を境にヴェーダ期と呼ばれる新たな文化が形成されていく。 紀元前1200年頃からは、ア…

中村元『ブッダ伝 生涯と思想』(1995)

*ブッダ本来の教えを知る ガウタマ・シッダールタは、紀元前五世紀頃、インド北部、ネパール国境付近のシャーキャ国の王族として生まれ、29才で出家、6年間の修行ののちに悟りを開き、その後は80才で入滅するまで北インドを中心に45年間説法をして廻った。 …

菅野完『日本会議の研究』(2016)

安倍首相をはじめとした保守系の政治家に大きな影響力を持つと言われる「日本会議」。 2014年に発足した第三次安倍内閣では、全閣僚19人中、16人までもが日本会議に所属している。 しかしながら、その実態がほとんど謎に包まれていた。本書では、この「日本…

井上智洋『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』(2016)

*人工知能の飛躍的発展 1980年代の人工知能の研究は、人間の記号処理や論理的思考の再現を目指すものだった。しかし、その研究はさしたる成果もないまま行き詰まった。 そこで、90年代の末頃からは、確率・統計的手法で、人間の認知能力を再現する研究が主…

大村大次郎『税務署の正体』(2014)

広告 // また今年も確定申告とかいうメンドクサイ申告の季節がやってきた。 ほんと、頭痛い。 まともに払ったところで、どーせ、まともに使われはしない。使われ方はまともに精査されないくせに、支払い方には、めちゃくちゃ厳しい。と、文句を言ったところ…

水村美苗『日本語が亡びるとき』(2008)

*消えていく言語 一説では、現在世界に5000から8000の言語が存在しているといわれる。数え方にもよるが、少なくとも3000近くあると見るのが一般的らしい。 世界には多種多様な言語が存在しているが、それと同時に消滅の危機に瀕している言語も数多く存在し…

辻井喬・上野千鶴子『ポスト消費社会のゆくえ』(2008)

広告 // 辻井喬こと堤清二と上野千鶴子の対談本。 80年代の消費文化を牽引した西武百貨店を中心としたセゾングループのお話。 2008年の出版で、この対談が行われた年は、長引くデフレ経済で景気はどん底、金融危機のあおりで株価もどん底、という消費文化の…

清水幾太郎『本はどう読むか』(1972)

*読まれる読書から読む読書へ 読書というのは、なんとなく読んでいるだけで、自分が考えたような気になってしまう。しかし、著者に言わせると、それは本に「読まれている」だけで、自分にとって意味のある読書体験にはなっていない、ということらしい。 ま…

神野直彦『人間回復の経済学』(2002)

*市場経済に従属する人間 1982年から87年の足掛け6年に亘った中曽根政権は、構造改革を主導し、規制緩和、民営化、行政改革を推し進めた。しかし、その結果の90年代は、「失われた10年」と呼ばれ、長期の経済停滞に陥った。 2001年4月に誕生した小泉政権は…

日本戦時下の笑い その2

早坂隆『日本の戦時下ジョーク集 太平洋戦争編』(2007) *過酷な時代の笑い 前作『満州事変・日中戦争編』の続編。今作は、昭和16年の太平洋戦争開戦から、昭和20年の終戦まで。 日本の有史以来、最も過酷だった時代だ。この時代を生きた人々の笑いとはどの…

日本戦時下の笑い

早坂隆『日本の戦時下ジョーク集 満州事変・日中戦争編』(2007) *昭和日本の芸能史 昭和初期から太平洋戦争の直前まで、いわゆる戦時下を生きた庶民の笑いを取り上げている。 昭和は確かに政治、外交ともに激動の時代だったが、本書が扱っている範囲が太平…

今野晴貴『生活保護 知られざる恐怖の現場』(2013)

*生活保護に対するバッシング 平均賃金が下がり続けるなか、社会保険料は上がり続けていて、ますます労働者の負担は重たくなっている。もう私の生活なんてカツカツだ。 劣悪な労働条件で働く人が増え続けているなか、労働者の不満は、経営者や政治家よりも…

中島義道『哲学の道場』(1998)

日常誰でもが出会う事柄に対して半病的なこだわりをもち、それに対して全身でぶつかってゆき答えを求めようとする無謀でいくぶん滑稽な(まさにトン・キホーテ的な)営みこそ哲学なのです。 哲学は、一切の事柄において、何の役にも立たない。 哲学が、日常…

Plato『饗宴』(B.C. 4c)

彼女は言った。『では、以上をまとめると、こうなる――エロスは、よいものを永遠に自分のものにすることを求めているのだと』 *哲学的文学作品 舞台は、前416年のアテナイ。ソクラテスは53歳で、壮年を迎えている。 『ソクラテスの弁明』『クリトン』『パイ…

Plato『パイドン』(B.C. 4c)

*プラトン中期の代表作 『パイドン』は、毒杯を仰ぐソクラテスの最期の姿を描いた作品。哲学的のみならず、文学的にも優れた内容で、プラトン中期を代表する著作だ。 「魂の不死について」という副題が付いているように、死を目前にひかえたソクラテスが、…

Plato『メノン』(B.C. 4c)

*対話から想起へ 『メノン』は、プラトン初期対話篇の作品で、『ゴルギアス』とともに最も遅く書かれたと見られている。初期作と中期作の両方の特徴を持ち、中期への橋渡し的な位置付けにある。 主題となっていることは、「徳(アレテー)は教えることが可…

Plato『プロタゴラス』(B.C. 4c)

*若きソクラテス 『プロタゴラス』は、プラトンの「対話編」の中では、『パルメニデス』に次いで、最も若いころのソクラテスの姿を描いた作品。作中でのソクラテスは、36歳となっている。プラトンの初期作品群に属した著作で、プラトン自身も、おそらく30代…

Plato『ソクラテスの弁明』(B.C. 4c)

私は神によってポリスにくっ付けられた存在なのです。大きくて血統はよいが、その大きさゆえにちょっとノロマで、アブのような存在に目を覚まさせてもらう必要がある馬、そんなこのポリスに、神は私をくっ付けられたのだと思うのです。その私とは、あなた方…

Francis Macdonald Cornford『ソクラテス以前以後』(1932)

汝自身を知れ――― デルポイの神殿に飾られたこの銘文は、ソクラテスの思想を最も象徴的に表した言葉だろう。 ソクラテス以前の哲学は、イオニアの自然学派が中心で、彼らの関心は、この世界が何によって作られ、どのようにして生成と消滅を繰り返すのかという…

Chris Anderson『フリー <無料>からお金を生み出す新戦略』(2009)

2009年刊行。 出版直後から非常に話題になっていた本。本屋でも平積みになっていて、非常に気になっていたのだが、「分厚い」「ハードカバー」「1800円+税もする!」というのが妨げになって、結局、買わなかった。 そのうち、買わないまま一年ぐらいが過ぎ、…

Thomas Kasulis『神道』(2004)

2004年刊行。翻訳は2014年。 著者は、アメリカにおける日本思想、宗教哲学の第一人者。 神道という、日本人にとってさえ、極めて捉えどころない宗教を外国人の視点から、体系的にまとめている。 多くの日本人にとって、神道は、普段、「宗教 religion」とし…