読書亡羊

気ままに読書、気ままな読書日記

Jan Gonda『インド思想史』(1948)

インド北西のインダス川流域では、紀元前2600年頃からインダス文明が発展した。この文明は紀元前1800年頃には衰退し、それと入れ替わるような形で、紀元前1900年から1700年を境にヴェーダ期と呼ばれる新たな文化が形成されていく。 紀元前1200年頃からは、ア…

中村元『ブッダ伝 生涯と思想』(1995)

*ブッダ本来の教えを知る ガウタマ・シッダールタは、紀元前五世紀頃、インド北部、ネパール国境付近のシャーキャ国の王族として生まれ、29才で出家、6年間の修行ののちに悟りを開き、その後は80才で入滅するまで北インドを中心に45年間説法をして廻った。 …

菅野完『日本会議の研究』(2016)

安倍首相をはじめとした保守系の政治家に大きな影響力を持つと言われる「日本会議」。 2014年に発足した第三次安倍内閣では、全閣僚19人中、16人までもが日本会議に所属している。 しかしながら、その実態がほとんど謎に包まれていた。本書では、この「日本…

辻井喬・上野千鶴子『ポスト消費社会のゆくえ』(2008)

辻井喬こと堤清二と上野千鶴子の対談本。 80年代の消費文化を牽引した西武百貨店を中心としたセゾングループのお話。 2008年の出版で、この対談が行われた年は、長引くデフレ経済で景気はどん底、金融危機のあおりで株価もどん底、という消費文化の低迷が濃…

清水幾太郎『本はどう読むか』(1972)

*読まれる読書から読む読書へ 読書というのは、なんとなく読んでいるだけで、自分が考えたような気になってしまう。しかし、著者に言わせると、それは本に「読まれている」だけで、自分にとって意味のある読書体験にはなっていない、ということらしい。 ま…

神野直彦『人間回復の経済学』(2002)

*市場経済に従属する人間 1982年から87年の足掛け6年に亘った中曽根政権は、構造改革を主導し、規制緩和、民営化、行政改革を推し進めた。しかし、その結果の90年代は、「失われた10年」と呼ばれ、長期の経済停滞に陥った。 2001年4月に誕生した小泉政権は…

日本戦時下の笑い

早坂隆『日本の戦時下ジョーク集 満州事変・日中戦争編』(2007) *昭和日本の芸能史 昭和初期から太平洋戦争の直前まで、いわゆる戦時下を生きた庶民の笑いを取り上げている。 昭和は確かに政治、外交ともに激動の時代だったが、本書が扱っている範囲が太平…

今野晴貴『生活保護 知られざる恐怖の現場』(2013)

*生活保護に対するバッシング 平均賃金が下がり続けるなか、社会保険料は上がり続けていて、ますます労働者の負担は重たくなっている。もう私の生活なんてカツカツだ。 劣悪な労働条件で働く人が増え続けているなか、労働者の不満は、経営者や政治家よりも…

中島義道『哲学の道場』(1998)

日常誰でもが出会う事柄に対して半病的なこだわりをもち、それに対して全身でぶつかってゆき答えを求めようとする無謀でいくぶん滑稽な(まさにトン・キホーテ的な)営みこそ哲学なのです。 哲学は、一切の事柄において、何の役にも立たない。 哲学が、日常…

Plato『プロタゴラス』(B.C. 5c)

*若きソクラテス 『プロタゴラス』は、プラトンの「対話編」の中では、『パルメニデス』に次いで、最も若いころのソクラテスの姿を描いた作品。作中でのソクラテスは、36歳となっている。プラトンの初期作品群に属した著作で、プラトン自身も、おそらく30代…

Chris Anderson『フリー <無料>からお金を生み出す新戦略』(2009)

2009年刊行。 出版直後から非常に話題になっていた本。本屋でも平積みになっていて、非常に気になっていたのだが、「分厚い」「ハードカバー」「1800円+税もする!」というのが妨げになって、買うのを躊躇してしまった。 そのうち、買わないまま一年ぐらいが…

Thomas Kasulis『神道』(2004)

2004年刊行。翻訳は2014年。 著者は、アメリカにおける日本思想、宗教哲学の第一人者。 神道という、日本人にとってさえ、極めて捉えどころない宗教を外国人の視点から、体系的にまとめている。 多くの日本人にとって、神道は、普段、「宗教 religion」とし…

小林よしのり他『原発はヤバイ、核兵器は安全』(2012)

*国防論と反原発論 2012年の本。 「原発はヤバイ、核兵器は安全」という本書の題に惹かれて手にとってみた。 小林氏らしく、右も左も言わないような突拍子もない主張で、どのような議論が展開されるのか期待して読んでみたが、本書の主題は主にTPPと国防論…

Bob Dylanとノーベル文学賞

Bob Dylan has won the 2016 Nobel prize in literature, says the permanent secretary of the Swedish Academy, Sara Danius. Announcing the award on Thursday she says Dylan ‘created new poetic expressions within the great American song traditio…

弓削達『ローマはなぜ滅んだか』 (1989)

人類史上初の世界帝国ローマは、いかにして滅んだか――― これは、人類史の中で最も魅力ある主題のひとつだろう。本書は、そうした問いに、ローマ繁栄の裏にある経済や社会構造の歪みなどに焦点を当ることで答えようとしたものだ。 *カルタゴとの覇権争い ロ…

全ての道はローマに通ず - omnes viae Romam ducunt - All roads lead to Rome

3世紀末のディオクレティアヌス帝時代の資料に、ローマの公道の総距離数を示す資料が残っている。 それによると、幹線となる国営の公道は、総数372道、延べキロ数約85000㎞になる。 国土交通省の資料によると、日本の高速道路の総距離数は、2016年現在、9165…

東京の夏祭りに情緒はあるのか?

夏ももうすぐ終わる。 9月になっても蒸し暑い日は当分続きそうだが、なぜか9月に入ると夏は終わったという感じがする。 普段、出不精の私も、夏になると山やら川やらに出かけるようになる。ついでに近所の夏祭りに寄ったりもする。 ただ、毎年、夏祭りに出か…

Horatius『詩論』 (B.C. 1c)

ミネルウァの意に添わないなら、あなたは語ることもつくることもいっさいできないだろう。これこそあなたの判断であり、良識である。けれども、将来あなたが何かを書いたなら、まずそれを批評家のマエキウスと父上と私に読んで聞かせてから、原稿を家の奥深…

Aristotle『詩学』 (B.C.4c)

*「詩」の体系的な把握 アリストテレスは、芸術の本質を「再現」(Mimesis)として捉えている。再現することは、自然を学ぶことであって、人間の本性に由来する。そして、再現されたものを鑑賞することに喜びを見出すのも人間の本性である。アリストテレスに…

Aristotle『弁論術』 (B.C.4c)

私は語り終えた。諸君はしかと聞いた。事実は諸君の手中にある。さあ、判定に入り給え。 *対話への信頼 よりよい答えというものは、討論や議論の中で生まれてくる。そういった「対話」に対する信頼が、西欧の知的伝統の根底にはある。思想や哲学は、誰か一…

畑村洋太郎『起業と倒産の失敗学』 (2003)

*企業倒産の事例集 成功に法則はないが、失敗には法則がある―――この言葉通り、企業が破綻した事例から失敗の要因を明らかにしようと試みた本。原著は2003年の刊行なので、2000年前後の破綻事例が紹介されている。 企業破綻にもさまざまな類型があり、その要…

畑村洋太郎『決定版 失敗学の法則』 (2002)

*組織論・経営論で欠けている失敗の知識化 2002年の本。 著者は機械工学の専門家。 機械を設計する上では、実験や実証による知識は欠かせない。 一つの機械が完成するまでには、実際に組み立てて、試行錯誤(trial and error)を繰り返しながら、正常に作動す…

偽装請負とは何か? - 派遣よりさらに劣悪な労働条件

偽装請負(ぎそううけおい)とは、日本において、契約が業務請負、業務委託、委任契約もしくは個人事業主であるのに実態が労働者供給あるいは供給された労働者の使役、または労働者派遣として適正に管理すべきである状況のことである。偽装請負 - Wikipedia …

熊谷徹『ドイツ人はなぜ、1年に150日休んでも仕事が回るのか』 (2015)

*極めて低い日本の労働生産性 2015年刊行。 2015年の一人当たりGDPでは、日本は26位。28位のイタリアには、何とか競り勝った! 失業率12.4%(2015年4月)で、何よりも家庭と私生活を優先し、南欧の温暖な気候のなかで、シエスタとかいいながら仕事しないで…

樺山紘一『ルネサンス』 (1993)

*近代性の裏に隠れたルネサンスの異なる側面 人間中心主義と合理主義的精神——— 14世紀は、古典文芸の復興の時代であり、中世的な宗教的盲目から解放された時代だ。この時代はのちにルネサンスと名付けられる。 19世紀中葉にミシュレーとブルクハルトによっ…

森岡孝二『雇用身分社会』 (2015)

*格差社会ニッポン 2013年に厚生労働省が発表した「国民生活基礎調査」によると、2012年の日本の相対的貧困率は、16.1%となっている。 この相対的貧困率とは、等価可処分所得(一人当たりの可処分所得)が中央値の半分に満たない人口比率のことで、12年の中…

竹信三恵子『ルポ賃金差別』 (2012)

2012年刊行。 総務省統計局が2016年5月に発表した2016年1月から3月期の労働力調査によると、非正規雇用者数は、全体の37.1%で2007万人、女性だけで見た場合は、53.6%にもおよび、1364万人になる。 正規の職がないために非正規雇用に甘んじる人の割合も27%…

日本の賃金を考える

竹内裕『日本の賃金』 (2008) 【残念な本】 *「企業の正社員」という枠の中での議論 90年代半ば以降、国際競争の激化に伴って、日本企業の収益は悪化し、各企業は賃金体系の見直しを迫られるようになった。終身雇用は崩れて、成果主義が取り入れられるよう…

Emmanuel Todd『シャルリとは誰か?』 (2016)

*テロの衝撃 2015年1月、パリにあるシャルリ・エブド本社がイスラム過激派と見られる犯人によって襲撃され、12人が殺害された。その後、報道が過激になるにつれて、フランスの世論は一時的にヒステリー的な症状に陥っていった。 非道義的で残虐なテロに反対…

松尾匡『この経済政策が民主主義を救う』 (2016)

2016年刊行。 左っかわの人による左っかわへの批判。 日本の野党はすでに政党としての体を成していない。方向性を見失い、対案を何も出せないまま、ただ政権与党の批判だけを繰り返している。日本の左派勢力は、本来あるべき姿を完全に見失っている―――本書か…